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ブルクミュラー『25の練習曲』の弾き方教え方~第16番《ちょっぴり不満》

ブルクミュラークリニック ダイジェスト

ブルクミュラークリニック ダイジェスト

ブルクミュラーの大人気ピアノ作品『25の練習曲』から1曲ずつ取り上げ、曲の作り、取り組み方、練習法などをお話ししていく「ブルクミュラークリニック(略してブルクリ)」。月刊誌『ムジカノーヴァ』から引き継いで、この『ムジカノーヴァONLINE』でも続けていきます。今回は第16番《ちょっぴり不満》です。ここでは大事なポイントをかいつまんで、ダイジェスト版としてお届けします。第25番まで行き着いたら、「処方箋」などもまとめて隅々までご紹介します。

ブルクミュラークリニック院長 奈良井巳城(ならい みき)

文 奈良井巳城
イラスト 駿高泰子


タイトルの日本語訳について

奈良井 読者のみなさん、こんにちは。本日は第16番《ちょっぴり不満》を紐解いていきます。ん? ちょっぴり不満?? このタイトルは音楽之友社版の訳語だね。原語はたしか「Douce plainte」。「douce」は「あまい」「優しい」で、「plainte」は「不満」「なげきの声」って意味だから、「あまいなげき」「ひそかななげき」という訳語を使った版もあるので、そのほうがピンとくる方もいるのかもしれません。でもですよ、「あまいなげき」ってどんななげき? そもそも「なげき」ってさ、深く悲しんで、ためいきをもらしたりすることでしょ? で、そこに「あまい」がつくんだけど、どういうことだ? 深く悲しんでるのに、少し嬉しかったり、優しい気持ちになったりするのか? あまくて、なげく? あまじょっぱいってことか?? ああ、あれか! ポテトチップスにチョコがコーティングされたやつだ。ん? それって美味しいだけじゃん。なげきなんかないじゃないか! じゃあ違うじゃん。もう、どういうことなんだ! いったいどういう曲なんだ~?!って、なるけどさ、「ちょっぴり不満」は意訳されていて、すっと入ってくるなかなか良いタイトルだよね~。おっといけない、一人でしゃべりまくっちゃった。指塚守先生をお招きしてたんだ。指塚先生、ずっと待たされて、ちょっぴり不満になっちゃったかな?(笑)

総合部メロディー科教授 指塚 守(ゆびづかい まもる

指塚 それが言いたくて、一人でしゃべり倒してたんですね(笑)。まぁ、あまりに一人で語ってるので、今日は院長の話を聞くdだけでいいか、とちょっぴり頭をよぎりましたが、そんなわけにはいきません。よろしくお願いいたします。

奈良井 ごめんごめん。では、さっそくいつものように全体を見ながら、以下の7つの心得に沿って解説していこう。

指塚 はい、心得一の使用楽譜については以前の通りなので、心得二からですね。4/4拍子、少し恨めしい感じのするg-moll。楽語についてはムジカノーヴァ2025年10月号の付録ポスターを参照してくださいね。心得三のタイトルは今院長が話していたように「ちょっぴり不満」、何に不満なのかを考えて、ドラマを作るといいね。

奈良井 そうだね~。この曲はコンパクトにまとまってるけど、結構ドラマティックよね。

指塚 そうなんです! 僕はいつもオペラの二重唱のようだな~と思ってます。

まるでオペラの二重唱

奈良井 おぉ、オペラとは大きく出たな。どんな感じに?

指塚 まず、ソプラノ歌手が少し憂いのある表情で、ヒロインとして登場するんですよ。で、自分の背負っている悲しい運命をなげきながら「あ~どうしよう」などと語りかけるところから始まるんです(冒頭右手)。

奈良井 うんうん、それから?

指塚 4小節目3拍目裏拍の左手にイケおじなテノール歌手が登場してですね、なげいているヒロインに寄り添って慰めて、共感して、僕が支えてあげるよ!的な歌を歌うんです。

奈良井 たしかに、ソプラノ歌手Aさんとテノール歌手Bくんの対話としてフレーズ作りすると盛り上がるよね~。伴奏も動揺しているような作りでメロディーによく合っているし。

指塚 オペラのようなイメージだと、ちょっぴりではなくて気持ちがふくらみすぎちゃうかもだけど、少しやりすぎなくらいのほうが表情は伝わりますからね。楽譜には(フレーズのまとまりを示す)アーティキュレーションスラーが多いので、(一息で歌う音楽的なまとまりを示す)フレージングスラーをつけてセリフを当てはめたりすると、イメージしやすいです。

奈良井 デュナーミクを見てみると、全体で2ヵ所盛り上がりがあるよね。前半と後半で1回ずつ、まぁ、繰り返せば4回ってことになるか。物語の頂点もそこに合わせて作りやすいかな?

指塚 はい! 前半はBくんからAさんへの対話で盛り上がるし、後半はAさんの想いが頂点に達するところも良いですよね! スラー以外にもアーティキュレーションの指示が細かく出ているので、丁寧に守って表情づけしていきましょう。

指づかいの作法

奈良井 さ~て、そろそろ心得六の指づかいについて、語っていただきましょうかね。

指塚 あ、指づかいの話ですね。私の専門分野です。皆さん、ピアノを弾くときの自然な形にした手を、鍵盤の上に乗せてみましょう。乗せましたか? では、指を見てみましょう。下の写真のように、2と3と4の指は黒鍵のある奥の方に、1と5の指は白鍵に乗っていますよね?

指塚 ここで分かるのは、自然な形で手を鍵盤に乗せると、1と5は黒鍵に届かないということです。1と5で黒鍵を弾こうとすると、腕から奥に動くことになります。その動作のせいで、音が凸凹になることがあるのです。ですから、できることなら、黒鍵は1や5で弾かないようにするのが、指づかいのお作法の一つなのです。お作法とは、お行儀の良い所作のこと。おはしで言えば、食事中に(箸を食べ物に突き刺す)刺し箸や(箸で食器を引き寄せる)寄せ箸をしたら、とてもお行儀が悪いですよね。(箸同士で物を渡す)拾い箸なんて、日本人ならギョッとする人も多いはず。ピアノ演奏でも同じことがたくさんあるよね。お作法を守って美しい音楽を作ろう!

奈良井 なんだかしつけの話みたいになったけど、お箸もピアノも、間違った作法でも扱えちゃうのが困るんだよね~。ビンのふたみたいに、大きさが違うと閉まらないとかならいいんだけどね。裏拍が強くなっちゃっても平気でいるとか、よくあるもんね。

指塚 はい、お作法をよく守ってほしいです。ただ、例外もあるので、色々経験が大事です。

奈良井 指塚先生、細かくありがとう。さて、次回は今回とは打って変わって、軽快で明るい第17番《おしゃべり娘》です! お楽しみに☆


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 第8番《優雅な人》
 第9番《狩》
 第10番《やさしい花》
 第11番《せきれい》
 第12番《お別れ》
 第13番《なぐさめ》
 第14番《スティリエンヌ》
 第15番《バラード》

本文で言及されたポスター「ブルクミュラー『25の練習曲』に登場する楽語たち」は『ムジカノーヴァ』2025年10月号の特別付録となっています。

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