今年度創立100周年を迎えた国立音楽大学は様々な分野で活躍する人材を輩出しており、学びの豊かさは広がりつづけています。特に2006年に開始された「コース制」では、3年次から自身の専攻をさらに深めるだけでなく新たな分野に挑戦することもでき、柔軟な学びの選択肢は将来の選択肢を広げることにも繋がっています。今回はその実情について、ピアノ専攻に焦点を当て、金子恵教授と山内のり子准教授にお話をうかがいました。
文-長井進之介
写真-各務あゆみ

近年は“二刀流”を目指す方も増えています
――ピアノ専攻の学生ですと、「鍵盤楽器ソリスト・コース」や「アンサンブル・ピアノ・コース」でより自身の技術や音楽性を深める方のほか、「声楽コース」などの異なる分野に挑戦する方もいらっしゃいますね。近年の学生のコース履修についてはどのような傾向がありますか?
金子 ピアノ専攻の学生は、鍵盤楽器ソリスト・コース、アンサンブル・ピアノ・コース、ピアノ指導コースが主な選択肢になっており、半数がピアノ系のコースに所属しているという状況ですね。
山内 そのほかの分野ですと、マネージメントや作曲、吹奏楽指導者、オルガンなど多様なコースが選ばれています。
金子 近年は“二刀流”を目指す方も増えているので、本学の柔軟なコース制との相性がとてもいいと感じています。オープンキャンパスでの進路相談でも、「ピアノとトロンボーン、どちらの専攻で入学しようか迷っている」というお話を高校生から聞くこともありました。
山内 大学卒業後の進路はもちろん様々ですが、鍵盤楽器ソリスト・コースやアンサンブル・ピアノ・コースに進まれた方は、さらに学びを深めたいと大学院への進学、あるいは留学、という進路を取ることが多いですね。
金子 イタリアやドイツなど海外で研鑽を積み、帰国後に演奏や教育分野で活躍するという例も増えています。現在、留学を終えて国立音楽大学でピアノ講師として勤務している卒業生もいます。

実際に子どもを教える「ピアノ指導コース」
――いずれのコースも将来につながる学びが得られますが、実際に子どもにピアノ指導を行う「ピアノ指導コース」も非常に人気ですね。
山内 履修生は全員が生徒を受け持ってレッスンを行います。半期ごとに発表会もあり、年に1回は本学の講堂小ホールで演奏できるよう受け持つ生徒の演奏を仕上げることも求められます。
金子 そして指導だけでなく発表会のチラシやプログラムの制作、当日の運営も学生が一丸となって行っており、本当に実践的な経験を積むことができるコースなので、卒業後、音楽教室で即戦力になっているという話も聞いています。
山内 また、このコースで非常に大事なのが『教材研究』という授業です。どんなピアノの教材が生徒に合っているのか、またそれをどのように教えるのか、ということを考えるものです。ブルクミュラーの練習曲集やギロックの楽曲など、ピアノ指導における重要な作品のスペシャリストをお呼びしての特別講義も行われます。
金子 たくさんの素晴らしい教材をどう使うか、またそれがどんな子どもに合うのか、難しい判断をできる力が育ちますね。
――指導力はもちろんですが、様々なスキルを得ることができるコースですね。
山内 社会で必要なコミュニケーション能力や企画力はもちろんのこと、指導経験を重ねていくことで、自分を客観視することができるようになっていると感じます。例えば、レッスンで先生から言われたことを、今度は自身が先生となり生徒へ伝えるときにはどうしたらよいのだろうと考え、表現の引き出しを増やすことができるのです。
金子 受け身ではなく自分の演奏にも指導をするように向き合える力がつき、もっとこうしたらよいのではないかと気づくことで結果的に学びの意欲も向上します。
山内 それから授業の最後にはレポート提出とプレゼンテーションが課されており、2年間の学びの成果を伝えていただきます。毎回それぞれの個性がとてもよく出た素晴らしい発表で、驚かされています。
金子 指導をする側、受ける側という様々な立場から得た経験を経て、卒業後は音楽教室の講師や学校の教員になるというのが最も多い進路です。なかには100人規模の教室を開いた、あるいはコンクールを立ち上げた……という方もいらっしゃいます。
山内 また、学生からレッスンを受けていたお子さんが「ピアノを続けたい」と思い、国立音楽大学の附属中・高、そして大学に進学する、というケースもあります。学生の指導からこうやって新たな繋がりができることはとてもうれしいことです。

受験生向けのイベントをきっかけに生まれた「即興ピアノ演奏コース」
――コースでの学びが学生の将来に直結し、指導を受けた生徒さんがさらに音楽を学び続けていかれるというのは、とてもいい循環が生まれていると感じます。次に、今年度新設された「即興ピアノ演奏コース」についても教えていただけますか。
金子 設置の大きなきっかけとなったのは、受験生向けのイベントで「どうすればハラミちゃん(国立音楽大学卒業のポップスピアニスト)になれますか?」と聞かれたことでした。そういった学びが必要とされていることを知り、私自身も即興演奏について知る機会を設けたところ、楽しむだけではなくその場でイメージを膨らませ音を紡ぎ音楽をつくりあげていく過程とその奥深さに、大変感銘を受けました。そしてこれには思いつきだけではない確かな基礎力が必要で、大学できちんと学問にすることに将来性があると感じたのです。そこで、本学を経てパリ国立高等音楽・舞踊学校で即興演奏科(improvisation au clavier、オルガンとピアノを対象とした即興課程)の日本人初の卒業生となった神﨑(こうざき)えり先生をお迎えし、「即興ピアノ演奏コース」を新設することになりました。
山内 学生のほとんどがはじめて即興演奏に触れているところですが、まずはこういう分野を知ること、経験することが大きな刺激になっていると感じていますし、学生自身がコース制を通じて新たな自分と出会い、変化していくのは教員にとっても大きな喜びです。
金子 すでに神﨑先生の“出した音に間違いはない”という指導方針のおかげで、学生は鍵盤を触って音を出すことをより楽しめるようになっていることを感じています。
山内 ただ弾くのではなく、主体性を持ち自ら考えて弾くという積み重ねは普段のレッスンにも良い影響をもたらしますので、これから学びを重ねていくことで様々な可能性が広がっていくことでしょう。
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今回お話をうかがい、演奏はもちろん、指導や創作など、実践的に社会とつながる学びが充実した様々なコースが開講されていることが分かりました。学生の個性に合わせて多様なコースを選べる柔軟な制度、そして卒業生が大学に戻り、教育に還元する循環が生まれていることから、今後のさらなる発展に期待が膨らみます。
*国立音楽大学のコース制などカリキュラムについての詳細はこちら。


