文 山本美芽
山本美芽(音楽ライター・ピアノ教本研究家)の読者であるピアノ指導者700名が集う「山本美芽ライティング研究会」。時代に即した指導方法を求めて2014年からFacebookを拠点に研究を続け、『はじめてのピアチャレ』に代表される山本美芽の著書や教材のバックボーンとなっています。今回は研究会誕生の12周年を記念して、ゲストにコンポーザー・ピアニストの斎藤守也さん(レ・フレール)を迎え、「曲が生まれる瞬間」をテーマに、特別レクチャーとコンサートを開催(4月25日・カワイ横浜)。創作の舞台裏から音楽の本質に迫る濃密な時間となりました。

楽譜を使わない作曲法~「音楽」が「音符」になる瞬間
前半は、特別レクチャー。冒頭に守也さんから語られたのは「作曲には楽譜を使わない」という驚きのエピソードでした。「音楽はまず音として存在し、その後に音符になる」という言葉は、日頃、「楽譜をどう読ませるか」に腐心している指導者にとって、コペルニクス的転回ともいえる気づきを与えてくれました。
天才の裏にある「つかみ取る」努力
ご自身のルーツとして語られたのは、響きに感動した幼少期の記憶や、ロックからの影響、そしてルクセンブルク国立音楽学校での学び。一見、天才的なひらめきだけで曲が生まれているように見えます。しかしその裏には「音楽を形にするための並々ならぬ努力」があり、日常の何気ない音や景色のなかからも大きなインスピレーションがあるというお話。守也さんの鋭敏な感性に、多くの参加者が深く頷きます。
型からの開放~アルバム『STORIES』の作曲プロセス
続いて守也さんのアルバム『STORIES』から3曲をピックアップして、作曲の具体的なプロセスが解説されます。「型」にはめるのではなく、音楽の「流れ」を重視する。その創作プロセスは、「音楽の本質は“自由”であり、感情の動きに素直なものだ」という大切な事実を再確認させられるものでした。
ピアノ教育の落とし穴「手段の目的化」を問い直す
今回、私が守也さんをお呼びして先生方に伝えたかったのは、「手段が目的化していないか?」ということ。楽譜を正確に読むこと、正しく指を動かすこと、形式を理解することは、豊かな表現のためのひとつの「手段」に過ぎず、目的ではないのです。コンポーザー・ピアニストである斎藤守也さんとの対話は、私たちが立ち返るべき音楽の原点について鮮やかに照らし出してくれます。
参加者のアンケートには、「教える立場として、楽譜の前に音があることを忘れないようにしたい」「生徒と一緒に即興演奏を楽しんでみたくなった」「不登校やグレーゾーンの子たちを支える教室を運営しているが、改めて『好きな曲を弾く喜び』を大切にしたいと思った」といった、指導への意欲に満ちた声が溢れていました。そのほかにも 「音符を音にする作業をしてきた自分にとって、逆方向から音楽を見る体験だった」 「(斎藤さんが作編曲した楽譜)『左手のための伴奏形エチュード』をレッスンで子どもたちに活用していることをサイン会で守也さんに伝えた際、直接アドバイスをいただけて感無量でした」といった喜びの声も寄せられました。
「音楽そのものになる」魂を揺さぶるライブ
レクチャーに続くコンサートでは、解説されたばかりの楽曲たちが次々と披露されました。至近距離で聴くShigeru Kawaiの豊かな響き、繊細なピアニッシモ、全身でビートを刻む圧倒的な音圧。守也さんがピアノに向かう姿は、まさに「音楽そのもの」。その劇的な瞬間を目の当たりにし、会場の至るところで涙をうかべる受講者の姿が。最後のアンコールでは、手が痛くなるまで手拍子をして、会場が一体感に包まれました。

ピアノ指導者、学習者、そして守也さんのファンが集まり、それぞれ違う立場にありながらも、守也さんというコンポーザー・ピアニストの在り方を間近に共有した贅沢なひととき。12周年という節目に相応しい、音楽への愛と活力をチャージする一日となりました。
当日の様子をこちらから少しご覧いただけます。


