カワイ表参道の公開講座「パスカル・ドゥヴァイヨン教授の『一度は勉強しておきたいピアノ作品』」。4月24日に行われた最終回では、メンデルスゾーンの『無言歌集』から《信頼》《デュエット》と、《幻想曲》op.28が取り上げられました。その講義内容を抜粋してお届けします。通訳は村田理夏子さんです。

19世紀前半、早咲きの才能を発揮してベートーヴェンの後継者とも見なされていたメンデルスゾーン。12~14歳で作曲された交響曲には、半音階を駆使したり、ヴァイオリンパートを4部に分けたりと、当時としては革新的な書法も見られます。ぜひ《弦楽八重奏曲》や《真夏の夜の夢》を聴いてみてください。まったく疑う余地なく、この作曲家の天才ぶりを目の当たりにすることでしょう。
ベートーヴェン「月光ソナタ」を連想させる《幻想曲》
「スコットランド風ソナタ」という名称でも親しまれている《幻想曲》作品28。スコットランドの物悲しい景色、変わりやすい天候、粗野で起伏の多い自然などを描いていると言われています。冒頭のドローン(持続低音)からは、スコットランドの民族楽器バグパイプが連想されます。ただ1834年の出版の際には、メンデルスゾーン自身によって「幻想曲」というタイトルのみが付けられました。
3楽章形式で、暗い調(嬰ヘ短調)の両端楽章に明るい調(イ長調)の第2楽章が挟まれていたり、楽章を追うごとに速度が上がったりという構造を見ると、ベートーヴェンの有名な「月光ソナタ」を連想せずにはいられません。リストは「月光」の中間楽章について「2つの深淵の合間に咲く1輪の花」と評しましたが、メンデルゾーンのこの作品でも同様のことが言えるでしょう。
《信頼》~強い表情を作る不協和音程
メンデルスゾーンの『無言歌集』では、「速く弾くためのテクニック」だけではない、若いピアニストの育成に役立つ大切なものを学ぶことができます。「歌わせること」「よく聴くこと」「音色や音質」などです。こうしたことにじっくり時間を使い、集中力をもって取り組むことも必要です。
《信頼》は、まさに歌曲によく見られる構造になっています。ピアノの序奏と後奏にはさまれて、5小節目から歌が始まります。この曲を学ぶ生徒に、同じような構造の歌曲を聴かせるのも有効でしょう。
まず、序奏部分で一番強い表情を持つのはどこになるでしょうか?

一番高い音は2小節目の3拍目のシですが、表情が一番強いのはここではなく、4拍目の和音が作る不協和音程になります。そのことは、クレッシェンドの長さに注目すると分かります。3拍目のシまでではなく、さらに先までかけられていますね。
このように、「表情を作る和音」に耳をよく傾けてください。例えば7小節目の1拍目(左手のレと右手のドが作る不協和音程)などです。
レガートもよく研究してください。鍵盤をいくら押しても、美しいレガートにはなりません。それよりも、空中での響きをいかにつなげるかという意識が大切です。
ポリフォニーの勉強にもなります。それぞれの声部の適切な居場所を作りましょう。そのためには、声部間のバランスの一番良いところを探る必要があります。メロディーがよく聞こえても、和音の大切な響きが聞こえなくなってしまうのは良くありません。一番効果的な練習法は、各声部の音を和音にして、一番下の音から一つずつ弾いてバランスをよく聴くことです。すべての声部に耳を傾ける習慣がつきます。
曲全体の頂点は23小節目です。

23小節目の3拍目がffとなっていますが、頂点とは言っても決して「叫び」ではありません。どのような頂点なのか、表情をじっくり研究してください。そうした組み立てをあらかじめ分かったうえで、曲を弾き始めなくてはなりません。
《デュエット》~真ん中の声部を埋もれさせない工夫


