こどものスケール・アルペジオ
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テンポ・ルバートはロマン派だけじゃない

バロック音楽の演奏表現

文ー菅野雅紀

ピアノ教室で、生徒がどの曲も同じように弾いているように感じる……その原因は、演奏にバロック・古典派・ロマン派・近現代の4期の様式感が伴っていないことにあるかもしれません。では、具体的にどの点を、どのように改善していったらよいでしょうか?
ムック『ジュニアのピアノコンクール 課題曲にチャレンジ!』では、各地でコンクール審査員や公開レッスンの講師を務め、子どもたちの演奏に触れる機会の多い菅野雅紀先生が、テンポとリズムの伸縮を用いた演奏表現について解説しています。そのなかから、ここではバロック音楽についての記事を紹介します。

楽譜をしっかり読んで、正確に弾けるようにするのはとっても大切。でも、もう一歩上の演奏表現を目指すためには、テンポ・ルバートをはじめとする感性豊かなアゴーギクが欠かせません。ここでは、歴史を紐解きながら、テンポやリズムの伸縮を用いた演奏表現について考えていきましょう。

「テンポ・ルバート(以下、ルバート)」というと、ショパンに代表されるロマン派の音楽を思い浮かべる人が多いことでしょう。でも、J.S. バッハの時代にルバートがあったことは、意外と知られていないかもしれません。ルバートという言葉は、1723 年にイタリアのカストラート歌手、P.F. トージという人が歌唱法の本で書いたのが最初といわれています。J.S. バッハがライプツィヒに引っ越し、トーマスカントールに就任したのも1723年。ルバートの歴史は、J.S. バッハの音楽と時を同じく発展していきました。当時のルバートは、現代のルバートとは違うもので、メロディーに即興的に音符を足したり減らしたりする技法などを意味していました(詳しくはJ.S. バッハの息子C.P.E. バッハや、D.G. テュルクの教本に、18 世紀当時のルバート演奏法が書かれています)。
現在では、バロックの演奏をするときは楽譜通りに弾くことが原則で、いきなり即興的に音を増減したら、驚かれてしまうことでしょう。当時のルバートを実践するのは、なかなかハードルが高そうです。
とはいえ、バロックの作品を演奏するとき、ただ、楽譜通りにテンポとリズムを厳格に守るのではなく、アゴーギクを付けた演奏表現が欠かせないのも事実です。続いては、当時の楽器という観点から、バロックの演奏表現に迫ってみましょう。

みなさんは、音を構成する要素について考えてみたことはありますか。音は「音高(高さ:ド、レ、ミ)」「音価(長さ:4 分音符、8 分音符)」「強度(強弱:フォルテ、ピアノ)」「音色(楽器や音の質の違い)」といった要素によって構成されています。
現代のピアノでは、音の高さは調律した時にほぼ決まってしまうので、演奏者が演奏中に操作することはできません(厳密に言えば、弾き方でピッチが変わりますが、ここでは無視することにします)。残りの3 つの要素「音価」「強度」「音色」については、演奏者が一音ずつ自由に操作することができ、表現力溢れる魅力的なピアノ演奏に欠かせない要素となっています。

 バロック時代によく用いられていた楽器の一つは、パイプオルガンです。ヨーロッパの教会に据え付けられた荘厳なパイプオルガンは、様々な種類のパイプを切り替えて多彩な音色を出したり、強弱を付けたりすることができます。しかし、一音ずつの音色や強弱を変えることはできません。

サン= ジェルマン・ロクセロワ教会のパイプオルガン

もう一つの重要な楽器、チェンバロは家庭用の小さなものから、演奏会用の大きなものまで、様々な種類が作られていました。二段鍵盤の大きな楽器では、弾く鍵盤を区別することで、強弱を付けることができますが、クレッシェンドのような段階的な変化を付けることはできません。

アンドレアス・ラッカースのチェンバロ(1646)CC BY-SA 3.0 Gérard Janot

現在のピアノのように、細かな音色や強弱を使った表現ができなかったバロック時代の楽器では、演奏表現の主役は「音価」、音の長さのコントロールでした。スタッカートやレガートといった音の長さ、そして一音ずつの繊細で気付かれないような加減速が、バロック時代の鍵盤音楽で随一の表現方法だったのです。ただテンポやリズムを守るだけではダメ。時間のズレや揺らぎがあってはじめて、感受性豊かな音楽表現が可能になるのです。

このほか、ムック『ジュニアのピアノコンクール 課題曲にチャレンジ!』では、バロックの演奏表現を実感するための電子ピアノの活用法や、古典派とロマン派のテンポ・ルバートについての解説も掲載されています。
ムックについての詳細はこちらをご覧ください。

4期のスタイルの弾き分け方のほか、2026年度ピティナ・ピアノコンペティション課題曲から計16曲の誌上レッスンなどを掲載。

ONTOMO MOOK
ジュニアのピアノコンクール 課題曲にチャレンジ!

ムジカノーヴァ 編 
定価2,420円

クラシック音楽への招待 子どものための50のとびら
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