こどものスケール・アルペジオ
読みもの
 

Report 小倉貴久子ピアノ演奏法セミナー

2024年6月18日、山響楽器中山店の主催で、小倉貴久子先生の「フォルテピアノの特性を踏まえた古典派ピアノ曲の演奏法」セミナーがZoomにて開催されました。当日の様子を、ピアノ指導者の佐藤晴香先生にレポートしていただきました。

取材・文―佐藤晴香/取材協力ー山響楽器中山店

※本記事は、ムジカノーヴァ2024年8月号の再掲です。


今回のセミナーではフォルテピアノの第一人者である小倉貴久子先生を講師にお迎えし、
・当時の楽器にはどんな特性があるのか?
・古典派音楽特有の奏法とは?
・現代のピアノで当時の楽器の特性を生かした演奏に近づけるには?
・実際にレッスンではどのように取り入れていくのか?
といったポイントを交え、お話しいただきました。

当時の楽器の特性

はじめに、小倉先生が実際にご所有のチェンバロ・クラヴィコード・フォルテピアノを画面に映しながら、それぞれの音域や鍵盤の深さ、音の減衰、アクションの違いなどを解説されました。まるで楽器博物館に足を運んだかのような内容でした。
例えば、チェンバロはタッチの変化でディミヌエンドやピアニッシモを表現することができませんが、声部の数を増やすことで強弱を表現していたという解説には目から鱗が落ちました。交差弦から成る現代のピアノとは異なり、平行弦の楽器は対位法音楽向きであったともお伺いし、多声音楽の発展した歴史を感じることができました。
その後は、標準版ピアノ楽譜『ソナチネ音楽帳・古典派前期』および『ソナチネ音楽帳・古典派後期』を教材に、現代ピアノでの素晴らしい実演とともに詳しい奏法をご解説いただきました。

古典派時代特有の奏法

古典派の作品では、強拍弱拍・裏拍表拍などの優劣を意識したアーティキュレーションが求められます。1曲目に取り上げられたG.C.ヴァーゲンザイル《ディヴェルティメント ハ長調》WV1 Op-1-2より、一部取り上げてみましょう。

タッチ譜例1
弱拍から強拍に進む際は、作曲者の指示がない限り、一度切り離す。その際に手首ではなく、第1関節を速く上げるような指さばきで、スラーの終わりの音は少し短く。

譜例1 G.C.ヴァーゲンザイル《ディヴェルティメント ハ長調》WV1 Op-1-2 第1~2小節

くさび形の記号譜例1譜例2
スタッカティッシモとは異なり、ここではテヌートのような意味で用いられる。

譜例2 同 第11~12小節

弾き飛ばしの技法譜例3
生き生きと、勢いよく。アッチャッカトゥーラに近い。

譜例3  第23~25小節

現代のピアノで実演

現代のピアノは交差弦になっており、極力平等に音が響き合うよう作られています。また、木材以外のパーツも含まれ、耐久性も上がっています。当時の楽器と比較することで、音色の変化や音の減衰の速さなど、違いを意識せずにはいられません。
セミナー拝聴後、改めて自宅のピアノに向かってみると、これまでと違う意識と聴く耳を持って作品に向き合えているのを感じました。以前よりも子音の立った、生き生きとした音楽に近づきました。この感覚を忘れず、今後につなげていきたいですね。

レッスンでの活用を目指して

セミナー中に小倉先生もおっしゃっていましたが、実際に当時の楽器の特性を生かした奏法に挑戦するのは、とても難しいことです。まだ伝える時期ではないと感じる生徒には、時代背景とともに当時の楽器の特性に触れるなど、その時の生徒の様子に合わせて取り入れていくことができそうです。
受講された先生方も、今回のセミナーを通して理解を深め、古典派の演奏がより楽しく、作品がより立体的で素敵な演奏になっていくことと思います。私自身も小倉先生の演奏を聴いて、レッスンで実際に奏法の違いを聴かせることができると、説得力がぐっと上がることを確信しました。
この時代は……ここの弾き方は……と言われても、しっくりこないまま取り組んでいる生徒は少なくないと思います。生徒にしっかりとした技術を身につけてほしいとお考えの先生はもちろんのこと、ピアノを楽しく学んでもらいたいとお考えの先生にもお勧めできる充実のセミナーでした。
古典派の作品は、音数としては少ないものの、楽譜に直接記されてはいない情報が隠されています。そのためにも小倉先生は「良い楽譜を使ってほしい」とおっしゃっていました。『ソナチネ音楽帳』ではより素敵な演奏を目指すヒントとして、楽曲のみならず、作曲家自身のことや当時の歴史的背景にも触れた解説が付いています。きっと指導者にとっても生徒にとっても、心強い味方となることでしょう。

〔今後の講座予定〕
小倉貴久子ピアノ演奏法セミナー
フォルテピアノの特性を踏まえた古典派ピアノ曲の演奏法
~現代ピアノで「らしく」弾くためのヒント~

2025年12月16日(火)10:30~12:30
会場:スター楽器 大森センター
詳細はこちら

2026年01月30日(金)10:15~12:15
会場:ヤマハ仙台サロン
詳細はこちら

レポートしてくださった
佐藤晴香先生の「セレーノピアノ教室」HPはこちら

クラシック音楽への招待 子どものための50のとびら
タイトルとURLをコピーしました