『うたとピアノの絵本』のCD版、連弾版の編曲者である佐藤誠一先生に、シリーズの特徴を解説していただきました。
※こちらは、ムジカノーヴァ2018年2月号の記事の抜粋です。
文―佐藤誠一
うたとピアノと絵本、シンプルであることの強み
1989年に出版された『うたとピアノの絵本』(『①みぎて』『②ひだりて』『③りょうて』の全3巻、音楽之友社刊)はロングセラー教本ですが、それ以外に「CD うたとピアノの絵本」『連弾・うたとピアノの絵本』の3種類が現在出ています。CD版と連弾版はオリジナル版が出て10年以上を経て世に出ましたので、内容も含め、あまりご存知ない方もいらっしゃるかもしれません。今回はオリジナル版、CD版、連弾版の各教材の特徴を紹介したいと思います。
著者・呉暁先生のこだわり
『うたとピアノの絵本』は「うた」、「ピアノ」、「絵(楽譜)」が同等に取り扱われています。 そして可能な限りシンプルに、手作り感のある上質な教材として子どもたちに音楽の基本を伝えたいという思いが教本のいたるところに表れています。
まず教本を開くと飛び込んでくる「絵」。 実際に本を開くと幅約60cmに渡る大パノラマの絵が迫ってきます。尾崎真吾さんによる子どもの目線の絵は、子どもたちにはどれだけインパクトがあることでしょう。また楽譜は、仙田幸三郎さんによる手書きの楽譜です。意外に気づかれていないのですが、歌詞も音符もすべて手書きです。そして曲。これは長年に渡って実際にレッスンで使われたものの中から、子どもたちに人気かつ効果がある曲が厳選されています。私は CD 版の打ち合わせの中でこれらのことを知り、その呉先生の想いに見合ったものを作るためにはどうしたらいいか、真剣に悩みました。
同等に取り扱われる一方で、「うた、ピアノ、絵本」の違いはなんでしょう? それは身体と音楽の距離です。歌は直接身体から発声するもの、ビアノは身体の運動によって楽器が音を出します。では絵は?「音楽と絵をどのように結びつけるか? どうしたら物語を楽しんでもらえるか?」そのヒントと答えが、CD版であり、連弾版となりました。この広がる絵と楽譜の音をつなぎ、音楽そのものに親しんでもらう、そこに音楽的な発想を育てる芽を組み込んでみる……これが CD 版や連弾版の役割です。
CD 版の効用
CD版は、ひと言で言えば「耳から入る教材」です。伴奏のアレンジは、様々な楽器音を使ってアンサンブルのように仕立て、絵本の物語が眼に浮かぶような音楽的イベントがたくさん入っています。CDを聴いてメロディーや歌詞、絵の雰囲気などに馴染んでいれば、実際のお稽古に目覚しい効果が現れます。『うたとピアノの絵本』の「まえがき」に「5~7歳の子供達は、鍵盤の上でドレミの位置を覚えて、楽譜を読みながらピアノや鍵盤ハーモニカで弾くことが出来ます。」とありますが、1~2才でこのCDを聴いていた子どもたちは、3~4才になる頃には楽譜を読まずに 聞こえてくる音から曲を自然に弾いてしまえる例が多く見られました。ここまでくると、鍵盤と楽譜から音の高さやリズムを結びつけるのはそう難しいものではありません。このことは教える側にとっては大いに助けになりますし、読譜やピアノに集中することにつながります。また伴奏に利用している様々なリズムや、聴き馴染んだメロディーは、ピアノを弾く時の音楽づくりにも十分活きてくるでしょう。
連弾版の効用
連弾版は、CDに耳慣れた子どもたちが楽しめるよう、アレンジをCDの雰囲気に近づけています。連弾版の効用は、アンサンブル体験の導入と、先生と一緒に音楽を体験できることに尽きます。自分で直接行う訓練ではなく、無意識に経験させる方法→まだ習得していない音楽の技術を、遊びや連弾を通して間接的に経験させることも非常に大切です。これについては、先生が弾く伴奏の中に入っていることでも十分効果があります。例えば、途中でテンポが変わる音楽、伴奏のリズムやノリが変わる音楽、旋法やハーモニーの色合い、伴奏に含まれたシンコペーションなど、遊びの中で対位法的な手法(カノンや反行音型の同時呈示など)を体験させることも可能です。
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呉暁先生の『うたとピアノの絵本』指導法③
呉暁先生の『連弾・うたとピアノの絵本』解説





