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上原由記音さんがスペイン国王より「エンコミエンダ章」を受章

写真左より、イニィゴ・デ・パラシオ・エスパーニャ駐日スペイン大使、上原由記音さん/スペイン大使館にて

11月20日、ピアニストの上原由記音さんが、スペイン国王フェリペ6世より「イサベル・ラ・カトリカ女王勲章」の「エンコミエンダ章」を授与された。この勲章は、スペインと国際社会の友好・協力関係の促進に貢献した人を称える目的で1815年に創設されたもの。日本人のピアニストとしては、初の受章となる。過去には、スペインを代表する作曲家アルベニスも受章している。


叙勲伝達式に登壇したイニィゴ・デ・パラシオ・エスパーニャ駐日スペイン大使は、「この勲章は最高の栄誉の一つであるだけでなく、スペインからの感謝の気持ちを表すもの」と強調した。
上原さんの受章理由について、パラシオ大使は「類まれな才能と卓越した演奏力を駆使し、日本におけるスペインの音楽の認知度と名声の向上に尽力した」と説明。
上原さんは日本スペインピアノ音楽学会の会長を10年間務め、琉球大学にて後進の指導にあたった。また、アルベニス、グラナドス、ファリャ、モンポウといったスペイン作曲家の作品をレパートリーとし、詳細な研究論文や伝記も執筆している。
パラシオ大使は「彼女の活動の歩みは、日本の音楽の伝統に根差す“精緻さと規律への飽くなき追求”を特徴としています。優雅で作品の本質に忠実な彼女の演奏によって、人々はスペイン音楽の新たなニュアンスを発見し、多くの学生たちが関心を持ってレパートリーを探求するようになりました」と謝辞を述べた。

エンコミエンダ章のメダルを授与される上原由記音さん(写真左)

メダルと証書を授与された上原さんは、「この栄誉は、長年にわたって活動を支えてくださった皆様のおかげです」と挨拶。
上原さんとスペイン音楽との出合いは、1970年代のパリ留学中に遡る。恩師ジャック・フェヴリエ氏を交通事故で亡くした失意の中、スペイン作曲家・ピアニストのアントニオ・ルイス・ピポ氏と出会い、スペイン作品を学ぶよう勧められた。上原さんにとって、スペイン音楽には「悲しみを吹き飛ばす力」があったのだという。
スペイン人のルイス・ピポ氏は、パリで自身が苦労した経験から、上原さんに日本でスペイン音楽の普及に努めるようアドバイス。その後は、録音や手紙のやりとり、そして上原さんが時々パリに渡るなどして指導を受けた。さらに、ルイス・ピポ氏の師であるアリシア・デ・ラローチャ女史からは、細やかなタッチによって音色を操る術を、モンポウ夫人のカルメン・ブラーボ女史からは、モンポウ特有の音色と呼吸を学ぶ機会にも恵まれた。
上原さんは「偉大な先生方からスペイン作品の普及を託されたはずですが、私はまだまだ微力。身に余る光栄ですが、これからも頑張ります」と抱負を語った。

叙勲伝達式後には、ゲストによるフラメンコの演奏が披露された。スペイン文化研究の第一人者・濱田滋郎さんの長女であり、上原さんの旧友である濱田吾愛さんがカンテ(歌)を、上原さんが「フラメンコの音楽を学んだ」という鈴木英夫さんがフラメンコギターを務め、喜びを意味するフラメンコ《アレグリアス》を演奏した。

写真左より、濱田吾愛さん、鈴木英夫さん

式典にはスペイン音楽関係者が集まり、終始和やかな雰囲気の中で行われた。

上原由記音さんの著書

アルベニス 生涯と作品

スペイン音楽やアルベニスの第一人者・上原由記音による集大成の書。
第1部は「生涯編」。著者はJ.トーレスの先行研究を基に、アルベニスが青少年期に旅行中に携えた「アルバム」のほか、日記や往復書簡も用いてその生涯の全貌を詳述。彼がパリとバルセロナの音楽界の橋渡しの担い手であったことや、中央ヨーロッパと近代スペインの音楽の関係なども詳述する。
第2部の「作品編」では、日本で初めてアルベニスの作品全体をカバー。なかでもピアノ作品は、後半期の重要な作品を中心に、ピアニストとしての著者ならではの民族的な作品の特徴とその表現方法も含めた解説を行う。

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