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目指すはリストのような「コンプリート・ミュージシャン」~阪田知樹さんデビュー15周年

会見に登壇した阪田知樹さん/4月22日、スタインウェイ&サンズ東京Ⓒ友澤綾乃

数々の国際コンクールや栄誉ある賞に輝き、近年の活躍も目覚ましい阪田知樹さん。今年はデビュー15周年、そして2016年フランツ・リスト国際ピアノコンクールでの優勝から10周年にあたる。「演奏」と「作曲」の2つを軸に展開する本年の活動について、4月22日の記者懇親会で公開された。

リストを中心とした「原点回帰」のプログラム

11月10日には、東京オペラシティコンサートホールで「オール・リスト」のリサイタルを開催する。これは、2016年のフランツ・リスト国際ピアノコンクールで演奏した曲を中心に選曲したものだという。
「1次予選で弾いた、《3つの演奏会用エチュード 第2曲 ヘ短調「軽やかさ」》、準決勝の《V.ベッリーニの歌劇「ノルマ」の回想》、決勝の《ピアノ・ソナタ ロ短調》をプログラムに入れています。尊敬するピアニストが歴代の入賞者に名を連ねていたので、私にとっても目標としていたコンクールでした。光栄にも、名だたる審査員の満場一致で優勝したのですが、特に準決勝の《「ノルマ」の回想》で、審査員の皆様からスタンディングオベーションをいただいたことも印象に残っています。
“ヴィルトゥオーゾ”としてのイメージが強いリストですが、75年にわたる長い人生のなかで、作風の変化が大きいことも魅力の一つ。11月10日のコンサートは、若い頃に作曲した華やかなオペラ作品から、晩年の《オルガンのための幻想曲とフーガ》《バッハの主題による変奏曲》《調性のないバガテル》といった挑戦的な作品まで、一夜でリストの人生を体感していただけるプログラムとなっています」
春(4~5月)と秋(10~11月)には、全国ツアーを行う。プログラムは開催地ごとに、阪田さんが聴いてもらいたいと思う曲を選んだ。
「たとえば、大きなホールでは荘厳な雰囲気の曲、サロンのような会場ではリストの違った一面を知っていただけるような曲を入れています」

リスト作品を学んだ二人の師

阪田さんが初めてリストの作品を弾いたのは、13歳のとき。
「先生が《バッハの名による幻想曲とフーガ》を選んでくださいました。今でこそ、リスト的な語法が凝縮された曲だと感じますが、当時はよくわかりませんでした。でもだからこそ、リストの音楽性を理解したいという気持ちになったのです。ピアノ作品に限らず、オーケストラや歌曲、オペラ作品の楽譜を探したり、リストの人生を調べたり、彼に直接教えを受けた方たちの演奏を聴いたりしました」

Ⓒ友澤綾乃

リストについて探求するなかで、影響を受けた師匠が二人いるという。
「一人は、パウル・バドゥラ=スコダ先生。彼が師事したエドウィン・フィッシャーは、リストの弟子マルティン・クラウゼに師事していました。つまり、リストの系譜にあたるのです。
スコダというと、シューベルト、モーツァルト、ベートーヴェンといったレパートリーを思い浮かべると思いますが、じつは彼自身もリストの作品を多く演奏しています。私も彼のもとで、ウィーン古典派だけでなく、リストの《ピアノ協奏曲 第1番》《巡礼の年》《ハンガリー狂詩曲》といった曲を勉強しました。
もう一人は、ハンガリー人のヴァーシャーリ・タマーシュ先生です。彼が師事したアニー・フィッシャーは、エルンスト・フォン・ドホナーニの薫陶を受けた方。私はヴァーシャーリ先生のもとで、《ピアノ・ソナタ ロ短調》《「ノルマ」の回想》、さらにはエチュードやラプソディーなどを勉強しました。
ヴァーシャーリ先生の祖母は、リストの演奏を聴いたことがあるそうです。リストは《「ノルマ」の回想》を弾く前に深呼吸をし、鼻いっぱいに空気をためてから1音目を鳴らしたと聞きました」

Ⓒ友澤綾乃

阪田さんが21歳で出場した、フランツ・リスト国際ピアノコンクールでの優勝から10年。その後、現在に至るまで、リストだけでなく、多くの作品に触れてきたからこそ、見えてきたこともあるという。
「リストは原曲に音を加えるなど、“足し算”が多いイメージがあると思うんです。私自身も、リストが編曲したオペラ作品や、若い頃に作曲したラプソディ―は、音を加えて弾くこともあります。ただ、彼の《ピアノ・ソナタ》や《巡礼の年》といったシリアスな作品は、楽譜に忠実に弾くようになりました。作品を演奏するなかで疑問が出てきたとき、楽譜に書いてある通りに弾くとうまくいくことも往々にしてあります。特に、リストのように演奏に長けている人物の場合、“ピアノの都合”も熟知しているのだと実感しています」

2曲の新作委嘱作品

近年は、ピアノ編曲集『ヴォカリーズ』『夢のあとに』、オリジナル作品『アルト・サクソフォーンとピアノのためのソナチネ』(いずれも音楽之友社刊)を出版するなど、作曲や編曲活動にも力を入れている。今年は、2作の委嘱作品の公開を控える。

ヴォカリーズ
夢のあとに
アルト・サクソフォーンとピアノのためのソナチネ

そのほか、リストや中央ヨーロッパ作品の解説・運指も務める。阪田知樹さんの楽譜一覧はこちら

7月18日には、神奈川フィルハーモニー管弦楽団の委嘱作品である「声楽と管弦楽のための新曲」の世界初演を迎える。英詩からインスピレーションを受け、「夜に想いを巡らせるような、憂いに満ちた作品」だという。指揮は阪田さん自身が務める。
11月21・22日には、群馬交響楽団の委嘱による新作の世界初演を予定している。本作自体はピアノを含まない編成のため、阪田さんは演奏しないが、同コンサートのピアノコンチェルトには出演する。

Ⓒ友澤綾乃

阪田さんが初めて作曲したのは、6歳くらいのとき。
「寝ているときにふと浮かんだ曲を、『五線紙に書きたい』と母に訴えました。その頃から自発的に曲を書くようになり、後に永冨正之先生、松本日之春先生に師事しました。お二人ともパリ音楽院で学ばれ、フランス音楽をよく知る方です。
海外では、エミール・ナウモフ先生に作曲を学びました。彼は、フォーレの直弟子であるナディア・ブーランジェに師事した方です。そのため、自分が作曲するときにはフランス音楽の影響を強く意識しています。特にフォーレは私にとって特別な作曲家で、演奏会でも意識的に取り入れています」
新作を披露する7月18日のコンサートでも、フォーレ作品を演奏するという。

今後の抱負

阪田さんが理想とするのは、リストのような「コンプリート・ミュージシャン」。ピアニスト、作曲家、指揮者、教育者など、音楽の様々な領域で活躍した先人たちのあとを追う。
「バッハやモーツァルト、ベートーヴェンも、自分が書いた曲を初演するときに指揮をしたり、演奏したりしていました。音楽家の仕事が分業化されたのは、近年のことだと思います。彼らのような、音楽家としての本来の姿を目指したい。今年1年はそれを体現する年になると思いますし、今後もそれを継続できるよう、日々音楽に真摯に向き合いたいと思っています」

会見の質疑応答では、今後の活動について様々な質問が挙がった。
「作曲面では、ピアノコンチェルトに挑戦したい。私自身、60曲近くのピアノコンチェルトを演奏し、作品と向き合ってきた経験を活かして、“ピアノコンチェルトとは何か”という問いに対する自分なりの答えを、形にできたらと思っています。
演奏面では、いつかベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲に挑戦したいという意思はあります。2021~2025年の『巡礼の旅』シリーズでも演奏した、リスト編のベートーヴェン交響曲も含め、ゆくゆくは録音できたら。レアなレパートリーとしては、中学のときに楽譜を買ったままになっているメトネルやアルカンの曲、それからチェルニーのピアノ・ソナタも魅力的なので、今後取り上げたいと思っています」

阪田さんのリサイタル詳細はこちら

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