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ショパンコンクール入賞者・山本貴志氏に聞く「ノクターン」の運指

山本貴志さん

2003年から5年間、ワルシャワ・ショパン音楽院(現ショパン音楽大学)で研鑽を積み、2005年のショパン国際ピアノコンクールで第4位に入賞したピアニストの山本貴志さん。『標準版ピアノ楽譜 ショパン ノクターン集』(音楽之友社)では運指を担当。ショパンならではの特徴を考慮したといいます。具体的なポイントについて解説していただきました。

Q.『標準版ピアノ楽譜 ショパン ノクターン集』の運指では、ショパンの特徴を考慮されたとのことですが、どのような方針で決められたのでしょうか?

山本 ショパンのノクターンにおける大きな特徴として、右手のテンポ・ルバート、そして左手の伴奏の扱い方が挙げられます。

ノクターンの旋律はルバートなしで歌うことができず、まさにそれこそがショパンの音楽の真髄と言えましょう。彼はポルタートやアクセント、ディミヌエンドなどの記号を使ってルバートを表現していますので、そのような部分では特に自然にルバートが入れられるような運指を意識しました。

また、歌うことが最重要のノクターンにおいては、どの指を使ってどのような音色を出すかが鍵となります。ショパン自身「5本の指はそれぞれ異なった音色を持っている」との言葉を残しているように、本書では場所によっては「弾きやすさ」よりもその音にふさわしいと思われる指を優先して採用しています。 左手の伴奏はその曲の「背景」であり、雰囲気作りに欠かせないものです。レガートが特徴の音型であれば可能な限りペダルなしでもレガートにできる運指を、また和音を主体とする伴奏型では和音が最もバランスよく響く運指を目指しています。《第7番》や《第12番》などの左手は、手の大きさや構造によって使い分けられるよう、2種類の運指を記しました

ノクターン_第12番

Q.ショパンのノクターンを演奏する際のアドバイスをお願いいたします。

山本 ショパンは「右手はソリスト、左手は指揮者」と言っていたそうです。淀みない左手の支えがあるからこそ、右手は自由に振る舞えるのだと思います。まずは左手だけを取り出してその自然な流れを身体に染み込ませてゆき、無意識に左手を使える状態にしてから右手をのせるのがお勧めです。

ショパンは、遺作も含めて21曲ものノクターンを私たちに残しました。作曲年代も雰囲気も様々で、心に留まるノクターンがきっとあるはずです。今回刊行した楽譜を通じて、よく演奏されるノクターンはもちろん、あまり取り上げられないノクターンの美しさも発見していただけましたならば、これ以上の喜びはありません。

クラシック音楽への招待 子どものための50のとびら
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